07/27:重粒子線治療を選択した経緯V
馬場先生へのメール。(6月21日)
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Subject: 食道がん治療についてのお伺い
馬場 雅行 様
初めてメールを差し上げます。私は鹿児島ラ・サール12期の吉田 耕治と申します。
今月人間ドックで食道がんと診断され現在東海大学でCTなどの検査を受けています。
今の段階では1期か2期の進行がんでEMRは多分駄目で全摘手術を勧められており
ます。
同期生をはじめ色々な伝手を頼って情報を集めていますが同期で育英基金の仲間でも
ある千葉大学理学部の、中村勝洋教授に馬場先生のことを紹介され、このメールを差
し上げる次第です。
これまで知りえたことから、私は、EMRがだめなら放射線治療を次の選択肢として
選択したいと思っていますが多くの方からそれは標準治療になっていないと忠告を受
けました。私は、それらの忠告がEBMに基づくものか納得できず、不躾とは思いま
したが馬場先生のご見解を伺いたくメールを差し上げた次第です。
また同期の鹿児島大学医学部丸山教授からは『粒子線だと、癌は瞬間的に消えますが
消えた後、そこが孔になるため食道がんは適応にならない』とのご指摘を戴きました。
素人の私には詳しいことが良く分からないのでこの辺についてもご教示いただければ
幸いです。
なお、東海大学の検査は今月中に終わり7月4日には結果が出ます。先日の診察で医
師は全摘以外のことは考えない方が良い、あまり素人が情報を取ると混乱するだけだ
とアドバイスされました。
この話から逆に私はこの医師に信頼をおくことができないのです。
(資料を添付いたします)
湘南厚木病院で人間ドックを受けました。
内視鏡による所見(2008/06/10 16:05)
食道:気管分岐部 29cm,SCj 39cm,横隔膜面 40cm
陥凹性病変(陥凹底は結節集簇様)、ルゴールは不染→Bx1-4
33cmの陥凹性病変内に5mm大の透明調、無茎性隆起よりBx3
(壁内転移?)
sm以深浸潤と思われます。
Ut〜Ltまで小白苔多数付着(S/O食道カンジタ)→Ltの白苔よりBx5
胃:open type atrophy. 噴門唇軽度開大
体上部前壁に2mmのIs polyp(fundic type)
十二指腸:異常なし
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impression
#食道Ca(Uc)
#食道カンジダ疑い
#萎縮性胃炎
#胃底腺ポリープ
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病理組織診断報告 (2008/06/17に資料をもらったもの)
所見
#1,2,3,4はいずれも高度異型を示す扁平上皮系細胞の造成からなる検体で、
単細胞化や全体としての角化傾向を示し、高ないし中分化型扁平上皮Caと診断され
る。
#3では間質浸潤が認識され、すでに進行Caである可能性が高い。
#5は異型性に乏しい重層扁平上皮のみの検体で、カンジダも確認できない。
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以上です。
はなはだ不躾で勝手なお願いですが宜しくお願い申し上げます。
243-0014 神奈川県厚木市旭町旭町3−19−16
吉田 耕治
馬場先生からの返信(6月23日)
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メールありがとうございます。鹿児島ラ・サール17期:馬場 雅行でございます。
私の専門は呼吸器でございまして食道は専門領域ではありませんが,当院の食道領域
担当医師とも相談いたしましてご返事申し上げております。
当院の食道担当医師の意見は
「食道がんの治療はまず正確な診断をすることが治療方針を決定するのに重要です。
癌は内腔の粘膜から発生します。粘膜にとどまっている癌をm癌といい、その下の粘
膜下層まで進展した癌はsm癌といい、さらに筋肉の層まで進展したものはpm癌と
いいます。胃癌の場合はsm癌までを早期癌といいますが、食道の場合はsmでもリンパ
節転移があれば進行癌とされます。m癌はさらに浅い方からm1,m2,m3と分類され、sm
癌もsm1,sm2,sm3と分類されます。深達度がm3-sm1までの場合リンパ節転移が10%
程度ですが、sm2-sm3となるとリンパ節転移の頻度は40−50%と急激に高くなり
ます。このことより内腔しか治療できない、内視鏡による切除はsm2-sm3の癌には適
応になりません。これらの癌には通常手術が第1選択となります。ただ最近の放射線
化学療法の成績も著しく向上し、手術に匹敵する成績をだしています。sm2-sm3でリ
ンパ節転移がなければI期の癌で、リンパ節転移があればII期のがんとなります。I期
の場合は手術成績も放射線化学療法の成績もほぼ同じです。しかしII期以上では手術
療法の成績のほうがやや勝っています。ただこの成績は放射線化学療法後に再発が見
られ、その病巣の切除手術を受けられている患者さんが多く含まれています。現在の
状況では、放射線化学療法を受けて良く効いて食道温存が可能な患者さんは3分の1
程度です。また放射線化学療法は吐き気・嘔吐などの副作用も比較的多いのが問題で
す。通常は手術が標準的治療と思われますが、放射線化学療法を選択しても誤りでは
ないと思われます。
重粒子線治療は過去には他臓器浸潤が認められる患者さんに限って食道癌の治療を
おこなっていたため、穿孔する患者さんも認められました。しかし、新たに平成16
年より比較的深達度の浅いpm以下の癌に対して術前重粒子線治療を開始しました。こ
の成績では、sm以下の癌は手術標本でほぼ消失していました。これらの良好な結果
から、重粒子線の根治療法の臨床試験が本年4月から開始されました。しかし現在ま
だこの臨床試験で治療した患者さんはいません。」
という次第です。
纏めますと,吉田先輩の場合は手術が標準的でありますが,手術を避けたいというお
気持ちが強いのであれば,制御できないと判断した場合には追加の手術をすることを
前提に放射線・化学療法を行ってもいいのではないかということです。放医研では吉
田先輩の状態の食道癌を対象とした重粒子線治療(単独治療で,手術はしない)の臨
床試験がこの4月から始まりましたが,治療した患者様はまだいらっしゃいません。
しがって重粒子線治療の効果は期待できるものですが,十分な観察期間を経た実績は
まだありません。
もし吉田先輩がご希望であれば放射線・化学療法でなら,東京では虎の門病院,東京
医科歯科大学,都立駒込病院,慶応大学などです。千葉大学・千葉県がんセンターも
ご紹介できると存じます。もちろん放医研を受診していただいて重粒子線治療の話を
直接お聞きになることも出来ます。
ご検討下さい。
なんなりとお申し付け下さい。
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馬場 雅行 Masayuki Baba, M.D.
独立行政法人放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター病院
治療課第二治療室長
〒263-8555千葉市稲毛区穴川4-9-1
電話043-206-3306(病院)
電話043-206-4621(ダイアルイン)
FAX:043-255-5972
URL:http://www.nirs.go.jp/
email:baba@xxxxxxxx
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Sent: Monday, June 23, 2008 4:05 PM
To: 'Masayuki Baba'
Subject: RE: 食道がん治療についてのお伺い
馬場 雅行先生
ご丁寧にご教示いただきありがとうございます。
現在東海大学で病期確定と術式確定のための検査を受診中です。
20日にCT、心電図、血液検査などを受け、月末までにX線TV UGI画像検査、
大腸内視鏡検査、超音波内視鏡検査を経て4日に確定診断が出る予定となっています。
EMRが可能であればそのまま東海大学に入院するつもりですが全摘手術ということ
であれば放射線化学療法の可能性を見極めたうえで、再発可能性と温存のメリットを
考えて判断いたしたく国立がんセンターと馬場先生のいらっしゃる放医研でお話を伺
いたいと思っています。
ただ重粒子線治療はネットで調べると治療費が300万円以上必要とのことで年金生
活者にはハードルが高いのではないかと感じています。この点についてどれくらいを
見積もっておけば良いのかご教示いただければ幸いです。
ネットで検索した知識によると、国立がんセンターの山田哲司先生は、患者の血清を
プロテインチップで分析後ペプチドマーカーの解析により、化学放射線療法が有効な
症例を事前に鑑別することに成功されたとありました。まだ症例が少なく確実性は疑
問があるようですがこのようなことが可能であれば、私もチェックを受け判断の材料
にしたいと思っていすが如何でしょうか?
ご多用中ご迷惑とは存じますが宜しくお願い申し上げます。
私はこの病気が発覚する前、7月5日から8日まで九州に帰省する計画をたて、博多
で同窓生と会う予定にしていたのでこのイベントを終わらせて治療に入りたいと思っ
ています。
このため国立がんセンターと放医研に伺えるのは9日以降になってしまいます。9日
は丸ビルホールで開催される貴院の第10回一般講演会に申し込んでいます。
現在、セカンドオピニオンの第1候補を国立がんセンターと放医研のどちらにすべき
か判断に迷っています。馬場先生の忌憚のないご意見を伺えればありがたく存じます。
先生と同期の黒木さんとは、毎月ラ・サール育英基金の会合で顔を合わせ、彼からも
馬場先生のことを紹介いただきました。
母校の皆様からも数多くの情報をいただき、ラ・サールの有難さを実感しているとこ
ろです。
http://www.yoshidak.com/
吉田 耕治
吉田 耕治 様
1.炭素線治療の費用について
炭素線治療には先進医療と臨床試験があります。当院で検討させていただいて,
臨床試験として行っている治療法で照射させていただくと判断されれば,照射
の費用は研究費のほうから支払われますので,自費請求はありません。先進医
療で行う照射法(プロトコール)となれば314万円が照射の費用として請求され
ます。先進医療は混合診療であり,照射以外の入院費などは保険が適用されます。
2.セカンドオピニオンの第一候補について
これは大変難しいご質問です。ただ,放医研の重粒子医科学センター病院は,
文字通り,炭素線治療を専門的に行う病院であることをご承知おきください。
したがって,再発時の手術などは連絡の良く取れる他の医療機関でということに
なります。そのときはもちろん,間違いのないようにご紹介いたします。セカン
ドオピニオンの順番は私には決めがたいと思います。広い知識のある先生であれ
ば国立がんセンターももちろんすばらしい病院ですし,ただ他の医療機関の先生
では重粒子(炭素イオン)線治療の実態はなかなかわからないと思います。
3.9日の一般講演会(丸ビルホール)にいらっしゃるのであればその場で医療
相談をお受けできる可能性もあります。われわれは種々の治療法の説明と重粒子
(炭素イオン)線治療の位置づけをいたしますので,最終的には治療法をご自身
で選択していただくことになります。
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馬場 雅行 Masayuki Baba, M.D.
このようなやり取りを通じて、積極的には重粒子(炭素イオン)線治療をお勧め
にならない馬場先生に科学者としての矜持を感じた。
また、単独治療で手術はしない、重粒子線治療の臨床試験がこの4月から始まった
ことが分かり、放射線・化学療法より重粒子線療法を選択する方が良いと判断した。
もちろん、かなり逡巡するところがあった。
何といっても単独治療の実績はゼロである。手術を選択すれば、今の病期なら8割
以上の確率で生き延びられる。しかし大きなダメージが体に残り、後遺症を克服す
るにはかなりの努力が避けられない。
放射線・化学療法も同じ程度の治癒率だというが、確実性に乏しい。
どの療法を選択しても転移の危険性は予測不可能で、結果としての幸運に委ねるし
かないのが実態であるようだ。
重粒子線療法は実績はないが、炭素線の優れた特性を考えるとチャレンジする価値
が充分あるし、QOLを考えれば理想的な治療法である。
確率はあくまで統計上のものであって、私が助かる方の確率に入るのか否かはまた
別問題である。
下記の本も読み漁り、常識的には手術を選択するのが当たり前だと分かった上で、
新しい科学技術に賭けてみる決心をした。
・「がんの最新医療」
国立がんセンター総長 垣添 忠生著
家内が勤める「フォルム画廊」の常連客の一人である理化学研究所の永井克孝先生
が貸してくださった本でがんそのものの知識と最新の治療方法が包括的に説明され
ており、判断基準をどう考えるかの指針となった。
(永井先生は東京大学医学部教授、理学博士、医学博士)
・「いちばん新しい食道がんの本」
東海大学病院長 幕内 博康著
この本を読むと、EMRを含めた手術以外の選択肢はありえないと思ってしまう。
・「防ぐ、治す食道ガンの最新治療」
国立がんセンター東病院内視鏡部長大津 敦監修
この本でも第一選択は手術であることが分かる。患者向けに易しく書き下ろした本
で、図解してあるのでどんどん読み進めることができる。食道がん手術の大変さが
実感できる図解つき。
・「がん重粒子腺治療がよくわかる本」
重粒子医科学センター長 辻井 博彦、医学物理部長 遠藤 真広 共著
重粒子腺治療の先進性は分かるが、食道がんについてはほとんど触れられていない。
・「21世紀のがん治療重粒子腺治療の基礎と臨床」
辻井 博彦 編
かなり専門的な本だが、やはり食道がんについては述べられていない。
・「自らがん患者となって」
国立がんセンター名誉総長 杉村 隆著
食道がんについては、新しい知識は得られなかった。